大谷 翔平(花巻東3年)投手 最終寸評
2012/10/10|Category:個別寸評
大谷 翔平(花巻東3年)投手 193/86 右/左
「野球に専念できる環境へ」
今日、大谷 翔平 は、アメリカで野球を続けるのか、日本でのプレーを希望するのか発表すると言う。私が彼に考えてもらいたいのは、できるだけ野球だけに専念できる環境に進むべきだということ。彼のように、精神的に課題を抱える選手は、極力野球以外のことに神経を使って欲しくないと思うから。
(この夏の 大谷 翔平)
彼が、岩手大会で160キロを記録した試合。これは、大谷が投げ込んだ、いや今まで見たどのアマチュア選手が投げ込んだ球よりも、実際凄みを感じる球だった。実際160キロを記録した打者相手には、みるみる160キロに近づき、最後に160キロまで到達したといった感じだった。昨夏~選抜までは、目に見えての大きな成長は感じられなかったが、選抜~最後の夏までの間には、明らかに大きな成長が生じていた。
ただ彼のベストピッチと呼べる試合は、この試合ではない。私が見た試合の中では、U-18の世界選手権・順位を決定づける韓国戦でのピッチングではなかったのだろうか。この試合こそ、現状の大谷の集大成であったように思えてならない。
(投球内容)
ゆったりと振りかぶり、けして力むことなく投げ込んできます。彼にとっては、150キロ台のストレートも、けして無理して投げているボールではありません。
ストレート 常時140キロ台後半~MAX155キロ
それでも大谷は、この試合で150キロ超えを連発します。無理しなくても、この球速帯の球が投げられるのは、同じ大会でMAX153キロを記録した 藤浪 晋太郎(大阪桐蔭)よりも、ワンランクスピード能力では秀でていることを示します。不思議と藤浪の球が自己主張しない心に響かない球なのに対し、無理しなくても大谷の球は心に突き刺さります。そして本当に力を入れた時こそが、岩手大会の150キロ台後半~MAX160キロの、未だかつて見たことのないような球が唸りをあげます。ことストレートの質に関しては、藤浪より明らかに上です。
またこの韓国戦では、内角へのコントロールには甘さが残ったものの、外角に投げるという意味ではキッチリコントロールされていました。そういった意味では、平常時のコントロールは悪くはありません。
変化球 スライダー・カーブ・チェンジアップ
選抜ぐらいまでは、結構チェンジアップを使って空振りを取っていましたが、この夏はあまり目立ちませんでした。また大きなカーブで、緩急を効かせることも出来ています。多少腕が緩む時がありますが、カーブのブレーキも悪くなく、相手の目先を変えることが出来ています。
むしろ圧倒的に、外角低めに鋭く切れ込むスライダーを武器にしたピッチング。この球で空振りを誘う場面が、韓国戦でも目立ちました。ただ平常心で投げている時のスライダーは良いのですが、少しでも力を入れて投げようとすると、肘が下がり押し出すような感じのスライダーになります。そして早く大きく曲がり過ぎて、明らかなボール球になるのです。またそれまでキッチリコーナーに集まっていた球が、高めに甘く入ることになります。大谷の詰めの甘さは、まさにこの時に生じます。
その他
牽制も、ランナーを目で威嚇するだけでなく、ファーストまで150キロは出ているのではないかと言うほど素早い球を投げます。クィックも1.1秒台~1.3秒台の間にまとめられ、けして大きな欠点はありません。また190センチ台の体格とは思えないぐらい、素早いマウンドの駆け下りでボールを処理します。投球以外の部分でも、この選手の並外れた身体能力を感じさせます。
(投球のまとめ)
大谷は、普段はコースにボールを投げ分けることができ、ボール球を振らせられるように、けしてコントロールが悪い投手でも、ピッチングが下手な投手でもありません。しかし簡単にアウトを取れたかと思ったら、突然四球を出してみたりと、力んで甘く入ったり精神的なムラが、試合の中で必ず顔を出します。
この選手の投球の課題は、ボールそのものでもコントロールでもなく、いかに平常心でムラのない投球に出来るのか、その一点に尽きます。必ず試合の中では、そういった危うい場面が見られます。しかしその時に踏ん張れるのか、踏ん張れず一気に失点を食らってしまうのかと言われると、現状は後者のケースが多いわけです。そういう勝負どころでの精神面の弱さが、藤浪との結果に大きく現れています。
そのムラみたいなものを、今後の野球人生でいかに減らして行けるのかが、この選手の生涯通しての課題ではないかと考えます。
(投球フォーム)
選抜のレポートの際には、フォーム分析を行いませんでした。そこで今回は、あえて行なってみたいと思います。
<広がる可能性> ☆☆
引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、基本的にお尻は一塁側に落とせません。これにより腕の振りが緩まないようなカーブや、縦に鋭く落ちるフォークのような球は投げ難いはずです。実際カーブを投げるときも、この腕の振りが鈍くなるので、あまり多投すると見切られてしまいます。
「着地」までの粘りも平均的なので、それほど絶対的な変化球を身につけるのは厳しいでしょう。ただ腕の振りが尋常ではないので、逆にスライダーの曲がり過ぎてしまい制御できません。これは、腕の振りが早すぎる投手に見られる傾向なので、彼もカットボールなどを覚えて、上手くカウントを取れる球種を身につけるべきです。現状は、スライダーやチェンジアップなど、球速のある変化球を中心に、投球を組み立てて行くタイプだと考えられます。逆に言えば緩急・縦の変化の習得は、今後も厳しいのではないかと考えます。
<ボールの支配> ☆☆☆☆
グラブは最後まで身体の近くに抱えられ、両サイドへの投げ分けは安定。足の甲でも地面を押し付けることができており、高めに抜ける球は多くありません。特に大谷の素晴らしいところは、低めに良い球が決められるところです。
ただ「球持ち」も平均的で、指先の感覚はよくありません。そのためボールのバラつきが顕著なのは、このリリースの不安定さにあります。ただこの辺は、身体ができてゆく過程で、改善できる部分だと考えます。
<故障のリスク> ☆☆☆
お尻が落とせない割にカーブを投げるので、肘への負担は小さくありません。しかしそれほど多くは投げませんし、普段は力投派ではないので、身体への負担は少ないと考えられます。
腕の角度もスリークオーター気味で、肩への負担は少ないはず。そう考えると、今後も故障の可能性は低いはず。高校の三年間は、満身創痍で殆どまともに投げられた時がありませんでした。しかしそれは、あくまでも故障しやすい体質というよりも、成長痛から来る部分が大きいように思えます。
<実戦的な術> ☆☆☆
「着地」までの粘りは平均的で、身体の「開き」も並といった感じ。そのため打者としては、けして苦になるほどのフォームではありません。
しかし腕は鋭く身体に絡みつくように、速球と変化球との見極めは困難。体重移動も発展途上で、まだまだボールに完全に体重を乗せ切れているわけではありません。今後更に、球速・ボールの質を向上させて行くことは期待できそうです。
(投球フォームのまとめ)
投球の4大動作である「着地」「球持ち」「体重移動」「開き」などの観点で見ても、どれも平均的で特に優れた点も、極端に劣っている点もありません。
それだけに、けして完成されている投手ではありませんし、更に伸び代が残されているとも考えられます。先輩の菊池雄星が戸惑ったのは、こういった実戦的な技術に課題がありました。大谷は技術的に優れているとは言えませんが、大きな欠点がないので、素直に肉付けすれば、それが結果になって現れやすい投手だと言えるでしょう。
(最後に)
これだけの球速・パフォーマンスを示しても、まだ肉体的にも技術的にも伸び代を残しているところは素晴らしいです。私がこれまで見たどの選手よりも「器」が大きいと指摘するのはこういった部分。
ただこの「器」は、非常に大きい分、脆く壊れやすい素材で出来ているように思います。その脆さは、彼を知っている誰しもが心配している点でしょう。実際最後の夏を見ても、その点は改善されませんでした。
この脆さの要因は、言わずと知れた精神的な部分であり、肉体の弱さからではありません。それゆえに、より精神的な負担が大きい海外での生活は、野球環境の違い、言葉の違い、食生活の違い、助けてくれる仲間の欠如、移動環境の違いなど、日本で野球を続けるよりも、遥かに過酷な条件が揃っていると言わざる得ません。
もし藤浪晋太郎が海外でプレーをしたいと言っているのならば、それもありかなと思います。しかし大谷のように精神面で不安を感じる選手に関しては、極力野球以外の負担は軽減した方が得策だと私は考えます。私は、まずは国内で実績を積んで、それから海外を目指すべき そう考えます。海外でいきなりコケれば、今後は海外でのチャンスも減るだけでなく、今の制度では日本での復帰も閉ざされます。器が強く固まるまでは、国内で野球人としての土台を固めるべきでしょう。
ただ「器」の大きさは、今までの日本球界にないサイズの大きさ。まだ不安定さは感じますが、ダルビッシュ有を超える才能持ち主。今年唯一の最高評価を彼に下すのは、当然というべきでしょう。この評価は、彼がどんな進路を選択し、今後大成しようとしまいと、けして私の中で変わることはありません。恐らく今後彼を超える器に、私はもう出会うことはできないでしょう。
蔵の評価:☆☆☆☆☆
(2012年 夏)
「野球に専念できる環境へ」
今日、大谷 翔平 は、アメリカで野球を続けるのか、日本でのプレーを希望するのか発表すると言う。私が彼に考えてもらいたいのは、できるだけ野球だけに専念できる環境に進むべきだということ。彼のように、精神的に課題を抱える選手は、極力野球以外のことに神経を使って欲しくないと思うから。
(この夏の 大谷 翔平)
彼が、岩手大会で160キロを記録した試合。これは、大谷が投げ込んだ、いや今まで見たどのアマチュア選手が投げ込んだ球よりも、実際凄みを感じる球だった。実際160キロを記録した打者相手には、みるみる160キロに近づき、最後に160キロまで到達したといった感じだった。昨夏~選抜までは、目に見えての大きな成長は感じられなかったが、選抜~最後の夏までの間には、明らかに大きな成長が生じていた。
ただ彼のベストピッチと呼べる試合は、この試合ではない。私が見た試合の中では、U-18の世界選手権・順位を決定づける韓国戦でのピッチングではなかったのだろうか。この試合こそ、現状の大谷の集大成であったように思えてならない。
(投球内容)
ゆったりと振りかぶり、けして力むことなく投げ込んできます。彼にとっては、150キロ台のストレートも、けして無理して投げているボールではありません。
ストレート 常時140キロ台後半~MAX155キロ
それでも大谷は、この試合で150キロ超えを連発します。無理しなくても、この球速帯の球が投げられるのは、同じ大会でMAX153キロを記録した 藤浪 晋太郎(大阪桐蔭)よりも、ワンランクスピード能力では秀でていることを示します。不思議と藤浪の球が自己主張しない心に響かない球なのに対し、無理しなくても大谷の球は心に突き刺さります。そして本当に力を入れた時こそが、岩手大会の150キロ台後半~MAX160キロの、未だかつて見たことのないような球が唸りをあげます。ことストレートの質に関しては、藤浪より明らかに上です。
またこの韓国戦では、内角へのコントロールには甘さが残ったものの、外角に投げるという意味ではキッチリコントロールされていました。そういった意味では、平常時のコントロールは悪くはありません。
変化球 スライダー・カーブ・チェンジアップ
選抜ぐらいまでは、結構チェンジアップを使って空振りを取っていましたが、この夏はあまり目立ちませんでした。また大きなカーブで、緩急を効かせることも出来ています。多少腕が緩む時がありますが、カーブのブレーキも悪くなく、相手の目先を変えることが出来ています。
むしろ圧倒的に、外角低めに鋭く切れ込むスライダーを武器にしたピッチング。この球で空振りを誘う場面が、韓国戦でも目立ちました。ただ平常心で投げている時のスライダーは良いのですが、少しでも力を入れて投げようとすると、肘が下がり押し出すような感じのスライダーになります。そして早く大きく曲がり過ぎて、明らかなボール球になるのです。またそれまでキッチリコーナーに集まっていた球が、高めに甘く入ることになります。大谷の詰めの甘さは、まさにこの時に生じます。
その他
牽制も、ランナーを目で威嚇するだけでなく、ファーストまで150キロは出ているのではないかと言うほど素早い球を投げます。クィックも1.1秒台~1.3秒台の間にまとめられ、けして大きな欠点はありません。また190センチ台の体格とは思えないぐらい、素早いマウンドの駆け下りでボールを処理します。投球以外の部分でも、この選手の並外れた身体能力を感じさせます。
(投球のまとめ)
大谷は、普段はコースにボールを投げ分けることができ、ボール球を振らせられるように、けしてコントロールが悪い投手でも、ピッチングが下手な投手でもありません。しかし簡単にアウトを取れたかと思ったら、突然四球を出してみたりと、力んで甘く入ったり精神的なムラが、試合の中で必ず顔を出します。
この選手の投球の課題は、ボールそのものでもコントロールでもなく、いかに平常心でムラのない投球に出来るのか、その一点に尽きます。必ず試合の中では、そういった危うい場面が見られます。しかしその時に踏ん張れるのか、踏ん張れず一気に失点を食らってしまうのかと言われると、現状は後者のケースが多いわけです。そういう勝負どころでの精神面の弱さが、藤浪との結果に大きく現れています。
そのムラみたいなものを、今後の野球人生でいかに減らして行けるのかが、この選手の生涯通しての課題ではないかと考えます。
(投球フォーム)
選抜のレポートの際には、フォーム分析を行いませんでした。そこで今回は、あえて行なってみたいと思います。
<広がる可能性> ☆☆
引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、基本的にお尻は一塁側に落とせません。これにより腕の振りが緩まないようなカーブや、縦に鋭く落ちるフォークのような球は投げ難いはずです。実際カーブを投げるときも、この腕の振りが鈍くなるので、あまり多投すると見切られてしまいます。
「着地」までの粘りも平均的なので、それほど絶対的な変化球を身につけるのは厳しいでしょう。ただ腕の振りが尋常ではないので、逆にスライダーの曲がり過ぎてしまい制御できません。これは、腕の振りが早すぎる投手に見られる傾向なので、彼もカットボールなどを覚えて、上手くカウントを取れる球種を身につけるべきです。現状は、スライダーやチェンジアップなど、球速のある変化球を中心に、投球を組み立てて行くタイプだと考えられます。逆に言えば緩急・縦の変化の習得は、今後も厳しいのではないかと考えます。
<ボールの支配> ☆☆☆☆
グラブは最後まで身体の近くに抱えられ、両サイドへの投げ分けは安定。足の甲でも地面を押し付けることができており、高めに抜ける球は多くありません。特に大谷の素晴らしいところは、低めに良い球が決められるところです。
ただ「球持ち」も平均的で、指先の感覚はよくありません。そのためボールのバラつきが顕著なのは、このリリースの不安定さにあります。ただこの辺は、身体ができてゆく過程で、改善できる部分だと考えます。
<故障のリスク> ☆☆☆
お尻が落とせない割にカーブを投げるので、肘への負担は小さくありません。しかしそれほど多くは投げませんし、普段は力投派ではないので、身体への負担は少ないと考えられます。
腕の角度もスリークオーター気味で、肩への負担は少ないはず。そう考えると、今後も故障の可能性は低いはず。高校の三年間は、満身創痍で殆どまともに投げられた時がありませんでした。しかしそれは、あくまでも故障しやすい体質というよりも、成長痛から来る部分が大きいように思えます。
<実戦的な術> ☆☆☆
「着地」までの粘りは平均的で、身体の「開き」も並といった感じ。そのため打者としては、けして苦になるほどのフォームではありません。
しかし腕は鋭く身体に絡みつくように、速球と変化球との見極めは困難。体重移動も発展途上で、まだまだボールに完全に体重を乗せ切れているわけではありません。今後更に、球速・ボールの質を向上させて行くことは期待できそうです。
(投球フォームのまとめ)
投球の4大動作である「着地」「球持ち」「体重移動」「開き」などの観点で見ても、どれも平均的で特に優れた点も、極端に劣っている点もありません。
それだけに、けして完成されている投手ではありませんし、更に伸び代が残されているとも考えられます。先輩の菊池雄星が戸惑ったのは、こういった実戦的な技術に課題がありました。大谷は技術的に優れているとは言えませんが、大きな欠点がないので、素直に肉付けすれば、それが結果になって現れやすい投手だと言えるでしょう。
(最後に)
これだけの球速・パフォーマンスを示しても、まだ肉体的にも技術的にも伸び代を残しているところは素晴らしいです。私がこれまで見たどの選手よりも「器」が大きいと指摘するのはこういった部分。
ただこの「器」は、非常に大きい分、脆く壊れやすい素材で出来ているように思います。その脆さは、彼を知っている誰しもが心配している点でしょう。実際最後の夏を見ても、その点は改善されませんでした。
この脆さの要因は、言わずと知れた精神的な部分であり、肉体の弱さからではありません。それゆえに、より精神的な負担が大きい海外での生活は、野球環境の違い、言葉の違い、食生活の違い、助けてくれる仲間の欠如、移動環境の違いなど、日本で野球を続けるよりも、遥かに過酷な条件が揃っていると言わざる得ません。
もし藤浪晋太郎が海外でプレーをしたいと言っているのならば、それもありかなと思います。しかし大谷のように精神面で不安を感じる選手に関しては、極力野球以外の負担は軽減した方が得策だと私は考えます。私は、まずは国内で実績を積んで、それから海外を目指すべき そう考えます。海外でいきなりコケれば、今後は海外でのチャンスも減るだけでなく、今の制度では日本での復帰も閉ざされます。器が強く固まるまでは、国内で野球人としての土台を固めるべきでしょう。
ただ「器」の大きさは、今までの日本球界にないサイズの大きさ。まだ不安定さは感じますが、ダルビッシュ有を超える才能持ち主。今年唯一の最高評価を彼に下すのは、当然というべきでしょう。この評価は、彼がどんな進路を選択し、今後大成しようとしまいと、けして私の中で変わることはありません。恐らく今後彼を超える器に、私はもう出会うことはできないでしょう。
蔵の評価:☆☆☆☆☆
(2012年 夏)
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