安楽 智大(済美・3年)投手
2014/08/28|Category:個別寸評
安楽 智大(済美・3年)投手 187/85 右/左
「何の心配もいらない」
故障のため調整が遅れていた最終学年の 安楽 智大 。夏の愛媛大会緒戦の三島高校戦では、MAX146キロを記録。その後の試合でも最速を1キロずつ増やして、破れた東温戦では148キロまで到達。投げ込まれるボールの勢い・角度・制球などをみると、怪我の心配は考えなくて良さそうなほど、外角低めに思わず唸るようなボールが投げ込んでいた。
(投球内容)
5月の宮崎招待試合で見た時の最速は、MAX143キロ。その頃に比べると、球速の面でもかなり回復していたと言える。
ストレート 常時140キロ台~MAX148キロ
安楽のボールは、ビシッと決まる勢いだけでなく、球威も兼ね備えたボリュームのある球質。それでいて、外角低め膝元に決まる角度とコントロールがある。アウトローに安定してこれだけのボールを投げられる高校生は、全国でも彼しかいないはず。力を入れた本気モードのストレートは、高校では中々打ち返すのは難しい。またインコースにも、意図的に厳しい球を投げてきます。それほど空振りを取るというよりも球威で詰まらせるタイプだと思っていたのですが、宮崎招待試合の妻戦では、球速はさほど出ていなくても面白いように空振りを奪っていたのには驚きました。
変化球 カーブ・スライダー・ツーシームなど
変化球は、曲がりながら落ちるスライダーとのコンビネーション。たまにアクセントで緩いカーブを投げてきます。またそのスライダーは、右打者の外角低めに集められます。その他ツーシーム的な球種もあるように見えますが、意図的に投げているのかはわかりません。
その他
クィックは、0.95~1.05秒ぐらいと、極めて高速。牽制の技術・フィールディングの動きも基準以上。とくにとっさの反応、冷静な判断力には光るものがある。意識が高い選手なので、こういった投球以外の部分の鍛錬も怠らない。
ランナーを背負ってからは、ボールをあえて長く持ち、走者や打者を焦らすような「間」も意識できている。瞬時にいろいろなことを行える冷静さと頭の回転の良さが、この投手にはある。
(投球のまとめ)
行き詰まる接戦を演じた夏の三島戦では、ストレートを絶対に打ち返されないだぞという気迫溢れる投球が光りました。破れた東温戦では、スクイズで先行され渾身の148キロのストレートをはじき返されるなど、試合巧者の相手に苦しめられリズムが掴めませんでした。ただ肘を痛めていたことで、あまり投げ込みなど肩周辺の筋力を鍛えられなかったことは、大会がが進むにつれ、投球が辛くなっていたのではないかと推測します。
昨年の良い時を10だとすると、9割ぐらいまでは夏の三島戦では回復していたように思います。むしろ内容だけだったら、破れた東温戦よりも、私は三島戦の方が良かったように見えました。安楽としては、このまま決勝まで勝ち上がることを逆算して、ベストまで引き上げるつもりだったのかもしれません。特にこの試合を観る限りは、肘の心配はないように感じました。
(投球フォーム)
かなり特殊なフォームをしている選手で、そんな中気になる点が昨年は2つありました。一つは、重心が沈み過ぎて前に体重が乗らない傾向にあること。もう一つは、フォームが直線的で比較的合わせやすいフォームだということ。では最後の夏はどうだったのか、検証してみたいと思います。
<広がる可能性> ☆☆☆☆
昨年までは、引き上げた足をピン伸ばすことなく重心を沈める特殊なフォームでした。しかし今年は、高い位置でピンと足を伸ばせるようになり、お尻を一塁側に無理なく落とせるようになっています。このため体を捻り出すスペースが確保でき、カーブで緩急を効かせたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球種を投げるのにも無理がありません。
また足をピンと伸ばすときに、幾分二塁側に送り込むことで上手くバランスを取れています。これにより「着地」のタイミングも、早く地面を捉えるのを防ぐことが出来ています。そういった意味では、「着地」までの粘りも適度作れており、身体を捻り出す時間も確保でき、変化球のキレ・曲がりも程よく投げられる、バランスの取れたフォームになっているのではないのでしょうか。将来的にも、球種を増やすことに無理を感じません。
<ボールの支配> ☆☆☆☆
グラブは体の近くに最後まであり、両サイドの投げ分けも安定。足の甲の地面への押し付けも、深すぎることなく適度に地面を捉えています。そのため外角低めへのコントロールに優れ、「球持ち」も悪くなく指先の感覚もまずまずだと言えるでしょう。
<故障のリスク> ☆☆☆☆
お尻を落とせるフォームになり、カーブやフォークのような球種を投げても、肘への負担は軽減したのではないのでしょうか。実際カーブは時々投げますが、フォークのような縦の変化は殆ど見られません。
振り下ろす腕の角度にも無理はなく、肩への負担も少なそう。そういった意味では、今のフォームならばそれほど故障のリスクは高くないと考えます。
<実戦的な術> ☆☆☆☆
「着地」までの粘りも作れており、体の「開き」も以前ほど早くないように見え、問題はないと考えます。振り下ろした腕も身体に絡むように、速球と変化球の見極めも困難。ボールにも適度に体重が乗せられており、以前のような重心が後ろに残るような感じもなくなってきています。
(フォームのまとめ)
昨年までは、かなり特殊なフォームをしており、これをいじると怖いなと思っていました。しかしこの一年で、見違えるほど課題を改善。この選手は問題意識を持ち、それを克服する努力とセンスを兼ね備えた選手だと関心致しました。
投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」でも、極端に優れている部分はないのですが、欠点らしい欠点がなくなったことは素直に評価したいポイント。
故障の危険性も減り、コントロールを司る動作にも優れます。実際の投球よりもフォームに不安があった選手ですが、その点が劇的に改善されたのには驚きます。故障で登板できないなか、フォームの欠点を地道に改善してきた意識の高さには頭が下がります。
(野球への意識)
この選手を見ていて思ったのは、頭の良さに加え意識の高さ。これだけの体格をしながら、所作は投手らしく細かい。打席に入る時も、けしてラインを踏むことはありません。驚いたのは、打席を外すときに後ろ向きに下がるのですが、その時も絶対に踏まないのです。これは、普段から身体に染みこんでいて、無意識にそういうことが出来てしまう選手なんですね。打席に入るときに注意できる選手はたくさんいるのですが、打席を外すときまでラインを見ることなく踏まないことが自然と出来てしまう選手を初めてみました。
また打者としてのフライも実に高く上がっていて、ボールが中々落ちてきません。このへんは、体幹の強さが他の選手とは全然違うことを深く実感します。投球内容云々よりも、そういった本質的な部分を生で観ることで強く感じます。この選手の持っている器が、他の野球人とは段違いに素晴らしいということです。
(最後に)
野球に対する意識の高さ、人間的な器の大きさという意味では、私が見てきた選手の中でも、松井 秀喜 と双璧だと言えるでしょう。純粋に素材としての器の大きさと言う意味では、大谷 翔平(日ハム)の方が、若干大きいかもしれない。それでも器の大きさは、間違いなく 藤浪晋太郎(阪神)よりも大きいでしょうし、その丈夫さという意味では、不安定さ・リスクを感じる部分があった大谷と比べると、遥かに強固なものだと評価します。
もう彼レベルになれば、アマで得るものは最初の一年もあれば充分吸収してしまうはず。プロでも歴史的な選手になるでしょうから、いずれはプロと考えるならば、一年も早くその世界に入るべき。怪我への対策や手術なども含めてのケアも、プロに勝る環境はないはず。自分の才能、進むべき世界に何も臆する必要はありません。 私が見てきた中でも、総合的には NO.1 の投手です!
蔵の評価:☆☆☆☆☆
(2014年夏 愛媛大会)
「何の心配もいらない」
故障のため調整が遅れていた最終学年の 安楽 智大 。夏の愛媛大会緒戦の三島高校戦では、MAX146キロを記録。その後の試合でも最速を1キロずつ増やして、破れた東温戦では148キロまで到達。投げ込まれるボールの勢い・角度・制球などをみると、怪我の心配は考えなくて良さそうなほど、外角低めに思わず唸るようなボールが投げ込んでいた。
(投球内容)
5月の宮崎招待試合で見た時の最速は、MAX143キロ。その頃に比べると、球速の面でもかなり回復していたと言える。
ストレート 常時140キロ台~MAX148キロ
安楽のボールは、ビシッと決まる勢いだけでなく、球威も兼ね備えたボリュームのある球質。それでいて、外角低め膝元に決まる角度とコントロールがある。アウトローに安定してこれだけのボールを投げられる高校生は、全国でも彼しかいないはず。力を入れた本気モードのストレートは、高校では中々打ち返すのは難しい。またインコースにも、意図的に厳しい球を投げてきます。それほど空振りを取るというよりも球威で詰まらせるタイプだと思っていたのですが、宮崎招待試合の妻戦では、球速はさほど出ていなくても面白いように空振りを奪っていたのには驚きました。
変化球 カーブ・スライダー・ツーシームなど
変化球は、曲がりながら落ちるスライダーとのコンビネーション。たまにアクセントで緩いカーブを投げてきます。またそのスライダーは、右打者の外角低めに集められます。その他ツーシーム的な球種もあるように見えますが、意図的に投げているのかはわかりません。
その他
クィックは、0.95~1.05秒ぐらいと、極めて高速。牽制の技術・フィールディングの動きも基準以上。とくにとっさの反応、冷静な判断力には光るものがある。意識が高い選手なので、こういった投球以外の部分の鍛錬も怠らない。
ランナーを背負ってからは、ボールをあえて長く持ち、走者や打者を焦らすような「間」も意識できている。瞬時にいろいろなことを行える冷静さと頭の回転の良さが、この投手にはある。
(投球のまとめ)
行き詰まる接戦を演じた夏の三島戦では、ストレートを絶対に打ち返されないだぞという気迫溢れる投球が光りました。破れた東温戦では、スクイズで先行され渾身の148キロのストレートをはじき返されるなど、試合巧者の相手に苦しめられリズムが掴めませんでした。ただ肘を痛めていたことで、あまり投げ込みなど肩周辺の筋力を鍛えられなかったことは、大会がが進むにつれ、投球が辛くなっていたのではないかと推測します。
昨年の良い時を10だとすると、9割ぐらいまでは夏の三島戦では回復していたように思います。むしろ内容だけだったら、破れた東温戦よりも、私は三島戦の方が良かったように見えました。安楽としては、このまま決勝まで勝ち上がることを逆算して、ベストまで引き上げるつもりだったのかもしれません。特にこの試合を観る限りは、肘の心配はないように感じました。
(投球フォーム)
かなり特殊なフォームをしている選手で、そんな中気になる点が昨年は2つありました。一つは、重心が沈み過ぎて前に体重が乗らない傾向にあること。もう一つは、フォームが直線的で比較的合わせやすいフォームだということ。では最後の夏はどうだったのか、検証してみたいと思います。
<広がる可能性> ☆☆☆☆
昨年までは、引き上げた足をピン伸ばすことなく重心を沈める特殊なフォームでした。しかし今年は、高い位置でピンと足を伸ばせるようになり、お尻を一塁側に無理なく落とせるようになっています。このため体を捻り出すスペースが確保でき、カーブで緩急を効かせたり、フォークのような縦に鋭く落ちる球種を投げるのにも無理がありません。
また足をピンと伸ばすときに、幾分二塁側に送り込むことで上手くバランスを取れています。これにより「着地」のタイミングも、早く地面を捉えるのを防ぐことが出来ています。そういった意味では、「着地」までの粘りも適度作れており、身体を捻り出す時間も確保でき、変化球のキレ・曲がりも程よく投げられる、バランスの取れたフォームになっているのではないのでしょうか。将来的にも、球種を増やすことに無理を感じません。
<ボールの支配> ☆☆☆☆
グラブは体の近くに最後まであり、両サイドの投げ分けも安定。足の甲の地面への押し付けも、深すぎることなく適度に地面を捉えています。そのため外角低めへのコントロールに優れ、「球持ち」も悪くなく指先の感覚もまずまずだと言えるでしょう。
<故障のリスク> ☆☆☆☆
お尻を落とせるフォームになり、カーブやフォークのような球種を投げても、肘への負担は軽減したのではないのでしょうか。実際カーブは時々投げますが、フォークのような縦の変化は殆ど見られません。
振り下ろす腕の角度にも無理はなく、肩への負担も少なそう。そういった意味では、今のフォームならばそれほど故障のリスクは高くないと考えます。
<実戦的な術> ☆☆☆☆
「着地」までの粘りも作れており、体の「開き」も以前ほど早くないように見え、問題はないと考えます。振り下ろした腕も身体に絡むように、速球と変化球の見極めも困難。ボールにも適度に体重が乗せられており、以前のような重心が後ろに残るような感じもなくなってきています。
(フォームのまとめ)
昨年までは、かなり特殊なフォームをしており、これをいじると怖いなと思っていました。しかしこの一年で、見違えるほど課題を改善。この選手は問題意識を持ち、それを克服する努力とセンスを兼ね備えた選手だと関心致しました。
投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」でも、極端に優れている部分はないのですが、欠点らしい欠点がなくなったことは素直に評価したいポイント。
故障の危険性も減り、コントロールを司る動作にも優れます。実際の投球よりもフォームに不安があった選手ですが、その点が劇的に改善されたのには驚きます。故障で登板できないなか、フォームの欠点を地道に改善してきた意識の高さには頭が下がります。
(野球への意識)
この選手を見ていて思ったのは、頭の良さに加え意識の高さ。これだけの体格をしながら、所作は投手らしく細かい。打席に入る時も、けしてラインを踏むことはありません。驚いたのは、打席を外すときに後ろ向きに下がるのですが、その時も絶対に踏まないのです。これは、普段から身体に染みこんでいて、無意識にそういうことが出来てしまう選手なんですね。打席に入るときに注意できる選手はたくさんいるのですが、打席を外すときまでラインを見ることなく踏まないことが自然と出来てしまう選手を初めてみました。
また打者としてのフライも実に高く上がっていて、ボールが中々落ちてきません。このへんは、体幹の強さが他の選手とは全然違うことを深く実感します。投球内容云々よりも、そういった本質的な部分を生で観ることで強く感じます。この選手の持っている器が、他の野球人とは段違いに素晴らしいということです。
(最後に)
野球に対する意識の高さ、人間的な器の大きさという意味では、私が見てきた選手の中でも、松井 秀喜 と双璧だと言えるでしょう。純粋に素材としての器の大きさと言う意味では、大谷 翔平(日ハム)の方が、若干大きいかもしれない。それでも器の大きさは、間違いなく 藤浪晋太郎(阪神)よりも大きいでしょうし、その丈夫さという意味では、不安定さ・リスクを感じる部分があった大谷と比べると、遥かに強固なものだと評価します。
もう彼レベルになれば、アマで得るものは最初の一年もあれば充分吸収してしまうはず。プロでも歴史的な選手になるでしょうから、いずれはプロと考えるならば、一年も早くその世界に入るべき。怪我への対策や手術なども含めてのケアも、プロに勝る環境はないはず。自分の才能、進むべき世界に何も臆する必要はありません。 私が見てきた中でも、総合的には NO.1 の投手です!
蔵の評価:☆☆☆☆☆
(2014年夏 愛媛大会)
- 関連記事
スポンサーサイト